間もなく国政選挙の投票日。かつてエポペに来ていただいた聖書学者としても有名なマルティーニ枢機卿は、ジャーナリストの「信仰と政治にはどんな関係があるでしょうか」という問いに次のように答えています。
「政治は人間の活動のなかで最も高度なものです。すべての人にとって真に善であるような、真に進歩がもたらされる条件を現実に整える努力です。
そのような善には、自由、良心の自由、信教の自由が含まれます。そして物事の根本的な意味を探し求めて見いだすように促すことも入っています。
信仰は人間を神の地平、永遠の地平へと開かせます。政治は歴史の地平で満足するのですが、しかし両者とも人間の善を求めるものです。たがいに矛盾対立してはならないのです」(カルロ・マリア・マルティーニ、A・エルカン著 佐久間勤訳『私はどのように神を見いだしたか――枢機卿、ジャーナリストに答える 』女子パウロ会)
彼はバチカンで唯一聖書がわかる枢機卿だと、私の耳元でささやいた上機嫌なネラン神父(このことは、流石に白柳枢機卿の面前では言いませんでした!笑)と、「彼は有力な教皇候補なんだよ。今日来たのはお忍びだから」と嬉しそうな白柳枢機卿の姿が昨日のことのように思い出されます。
今では三人とも帰天されていますが、現在の日本の政治状況について何と言っただろうかと、考えさせられる今日この頃です。
「すべての人にとって」「真に善であるような」「真に進歩がもたらされる条件を現実に整える」努力をするような政治家が選ばれるよう、切に祈り、考えながら、必ず自分も投票に行きたいと思います。
「人はみんな幸福を追い求めます。しかしながら真にキリスト教的な生き方は、なにがなんでも幸せを求めることとは違うのです。そうではなくむしろ、どのような代価を払ってでも愛することを求めていくような生き方なのです」 (アベ・ピエール『神に異をとなえる者』新教出版社より)
日本ではあまり知られていないかもしれませんが、フランス人のアベ・ピエールは、「恵まれない人々のために、恵まれない人々とともに」活動する団体、エマウスの創始者であり、長年フランスで絶大な人気と尊敬を集めていました。
あの(人をあまり褒めない?)ネラン師も一目置いていた人物で、2007年に国葬をもって送られたカトリック司祭(アベは神父の意)です。日本のエマウス運動の創始者・シスターたちもエポペに来ていただいていました。
在日フランス大使館のエマウスの紹介
http://www.ambafrance-jp.org/article3983
『神に異を唱える者』という彼の渾名のタイトルで誤解を受ける方がいるかもしれませんが、「フランスの良心」とも呼ばれた彼の率直な発言や具体的な行動は、信仰者として、むしろ惨めさや苦しみを必要以上に我が身に受けようとすることは、かえってキリスト教的ではないとさえ言い切ります。
この世界は神の愛によって人間が変えることができることを示し、かつそれをそのまま実践した人でした。
「必要以上に苦しみに意味をもたせようとする考えは、イエスが苦しまれたことを理由に苦痛を追い求め、苦しむことに喜びを見出そうとするキリスト者のうわべだけをとらえた避けるべきことです。これはまちがっています。人生をありのままに、率直に受け入れねばなりません。苦しみが避けられないときには、苦しみに反発したり、また自分の殻に閉じこもってその苦しみを避けたりするより、愛をもって苦しみを受け入れるようにしたいのです」(愛と幸福)
その物言いは、清々しくさえあり、アウグスチヌス以来の伝統的なキリスト教教理である原罪についても次のように言ってのけます。
「子どものころからずっと見てきたこの夢を、私はどうしても話したいのです。それは、『原罪』というしっくりこない不適切な言葉を、『傷』(それは私たち自身のせいではないもので、私たちの無実を保ってくれる)、『受け継がれた傷』というもっと真実味のある言葉に代えてみることです」(科学を前にして原罪をどう考えればよいか)
ただそれは、異端とされるようなものではなく、むしろ伝統的な神学に則ったものであるばかりか、ある意味で神学的には優れてオーソドキシー(正統主義)でさえあったのです。
その意味ではネラン師に一脈通じるものがあり、タブー視されているような教会内の問題にも歯に衣着せぬ物言いをしながら、本質を突いた内容に、だからこそ教皇庁も何も言えなかったのです。
「私が知る限り、ユダヤ教をうけて成立したキリスト教は人間の自由をとても大切にする宗教の一つです。まずこの自由は創り主に対して表明されます。人間はいつも自由に信じたり、信じなかったりします。神がお命じになることに従うことも自由ですし、従わないこともまた自由です。この良心の自由が一番大切です。これこそが愛の条件なのです。神がもし私たちに彼を愛することを強いるのであれば、この愛にどのような価値があるというのでしょうか」(自由と超<ハイパー>自由)
長々と私が下手な解説を申し上げるよりも、お読みいただければきっと共感していただける部分が多いと思いますが、あと一言だけ。
あまりキリスト教に触れたことのない方はもちろん、プロテスタントの牧師先生をはじめ教職者、教会員の皆様には、カトリックにもこういう司祭がいることをどうか知っていただきたいと思います。
そしてカトリックの皆様には、新教出版社がエキュメニカルな版元であり、昔からネラン師をはじめ(ジョルジュ・ネラン著『キリストの復活』新教出版社)、カトリックの書籍も刊行していることをお伝えできれば幸いです。
ちなみに、素敵なカバーが秀逸な以下のような最新刊もあります。併せて、ぜひご一読いただければ幸いです。
『教皇フランシスコ――12億の信徒を率いる神父の素顔』新教出版社
マリオ・エスコバル著 八重樫克彦・八重樫由貴子訳 定価:1,470円
進藤重光
クリスマスおめでとうございます。
本年の第33回エポペ・チャリティクリスマスのミサは、ホテル グランドパレスで、パリミッション管区長のO・シェガレ神父の司式でささげられました。
カトリック・プロテスタントを合わせた参加者が3分の2よりも少し多いというのは、いつものエポペの集まりとしてはちょっとキリスト者の方が多めではありましたが、その分、即製で結成された聖歌隊は歌い慣れていてとても力強く、おかげさまで盛会のうちに無事終了いたしました。
(いつもながら、信者でない方が参加しやすい交通至便な場所、三時間以上でミサが可能なスペースを確保し、十分なお食事を出来得る限り安価にご用意するというのは、毎年至難の業……)
今回、シェガレ神父のミサでの説教が素晴らしかったという声が多数聞かれました。
「クリスチャンではない日本人が当たり前のようにクリスマスを祝うのは、単にお祭り好きだからという理由だけではないはず」と話しはじめられました。
今年届いたばかりというイエズス会の管区長のクリスマスメッセージを引用しながら、「慌ただしい日々を送る現代人にとっても、真に求めているもの、必要なものは、沈黙と祈りではないか」「今なお戦争が起き続けている世界の中で、それでもキリストの平和を求めていくこと、神が望んでおられる真の平和を祈ることが重要」だと強調。
そして、「お酒を飲んだり食べたりする楽しみを自分も決して否定しませんが」と流暢な日本語で笑いを誘いながら、「とはいえ人間が真に求めている深い喜びは、そんなひと時の楽しみだけではなく、沈黙と感謝(エウカリスチア/ミサのもともとの呼び名)の祈りの中にこそ生まれるのです」。
「それを身をもって示してくださったイエス・キリストの誕生を祝うところに、クリスマス本来の意味があるのです」と説かれました。
続くチャリティパーティでは、はじめて彼女を連れて来られた方がキリスト教やボランティア活動の説明をしていたり、神父と呼ばれる聖職者とはじめてゆっくりお話ができましたと、とても喜んでいる方がおられたりといつものように和気あいあい。
天に召されたG・ネラン神父や三好満神父が、多くの方との出会いを願っていた「エポペ」の精神は、おかげさまで今年も恵みのうちに継承できたように思います。
あらためまして、司式していただいたシェガレ師をはじめ、ご参加ご協力いただいた方々に深く御礼を申し上げます。みなさまも、どうぞ、素敵なクリスマスをお迎えください。
メリークリスマス!
クリスマスが近づくと、遠藤周作著「おバカさん」のモデルで、エポペのマスターだったジョルジュ・ネラン神父のワンシーンを思い出します。
あまりお客さまのいないある日のエポペでのこと。当時流行っていた動物心理テストをやろうということになりました。
「あなたは森の中に入りました。さて、最初に出会う動物はなんですか」
「シカ!」「ウサギかしら!」「ライオンだな!」「小鳥!」「サルだろ!」
みんなてんでに最初に思いついた動物の名前を言い合います。
黙って見ていたネラン神父にも尋ねてみました。
「どうですか? 最初に出会う動物ですよ」
ちょっと遠くを見るような目をしてからマスターはおもむろに口を開きました(シルバーのベスト姿に黒の蝶ネクタイ、このときの横顔を今でも覚えています)。
「うーん、小さなアリかな、蝶かな…」
実はこれ、小さければ小さいほど、細かなところに目がいく、いわばその人のやさしさの度合いを測る心理テスト。
ここで、この質問の「動物」には虫が入らないと思い込んでいた人が多かったのも事実ですが、居合わせた全員がこの結果に心のなかで唸っていることがわかりました。ネラン神父の眼差しがどこに向けられていたかを知るうえで、非常に印象的な、そしてわたしの大切な思い出となって残っています。
クリスマスは、そんな小さな、ちっちゃな赤ん坊がこの世に誕生したことを祝う日です。
しかし、そのいのちは、多くの人を導くやさしい輝きに満ちた救い主としてのいのちでした。
弱く小さく見えるいのちに、本物の神の愛が宿っていたからです。
皆さま、クリスマスはお近くのキリスト教会にお越しください。世界中、必ずどなたでもお入りになれます。そして、どうぞ、よいクリスマスをお迎えください。
メリー クリスマス!
進藤重光
2012年も残りあとわずか。締めくくりに、エポペのクリスマスでお会いしませんか。
お店がなくなってから早くも一年が経ちましたが皆さまお元気でしょうか。
今回のクリスマスはホテルグランドパレスの個室を借り切ってのバイキング(飲み放題・食べ放題)スタイルになります。
一年に一度だけ、自分へのご褒美として美味しい料理と飲み物をこころゆくまで堪能するのはいかがでしょう。
そして何よりも、懐かしい皆さまにお会いできれば幸いです。
もちろん、初めての方や、ご友人、ご家族連れでも安心してご参加ください。
「第33回エポペ・チャリティクリスマス」
日 時 2012年12月22日(土曜日)
降誕ミサ 18時00分~19時00分(司式:オリビエ・シェガレ神父)
チャリティ
パーティー 19時00分~21時00分
会 費 お一人様7,000円(飲み放題・食べ放題)
お一人様7,000円(未就学児無料)
場 所 ホテル グランドパレス
レストラン「カトレア」プライベートルーム
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋1-1-1
美味しい料理とお飲み物を豊富にご用意しております。お手数ですがお席の都合上、事前にメールでのご予約を切にお願いいたします。
会場アクセス:http://www.grandpalace.co.jp/access/vehicle.html
■地下鉄『九段下駅』
東西線 7番口 (富士見口) より徒歩1分
半蔵門線・都営新宿線 3a・3b番口 より徒歩3分
■JR・地下鉄『飯田橋駅』 より徒歩7分
総武線・有楽町線・南北線・都営大江戸線
■東京シティエアーターミナル
(半蔵門線「水天宮前駅」) より10分
ご予約・お問い合わせ
(エポペ・チャリティ・クリスマス実行委員会事務局):http://www.epopee.co.jp/toiawase.shtml
※第15回エポペの集いはこのクリスマス会となります。