世の終わり、という言葉がありますが、実は神学用語としては誤解されて受け止められていることが多いようです。きょうは年末の大晦日で、一年が暮れる日、今年の締め括りですが、新年への準備という面もあります。
同じように、キリスト教にとっての終末は完成へと向かうことであって、毎年やってくる年の瀬とは違いますが、決して否定的なものではないからです。
考えてみれば、生命の発生が神秘であるように、生命の終わりも神秘です。それは、いのちの存在それ自体が神秘に満ちているからに他なりません。
確かに、生命には誕生があり、やがて否応なく死が訪れます。が、キリスト教では、それは決して滅びや絶望ということではなく(※)、新たな誕生への準備、復活への希望が込められています。
このほど、先日のフジテレビ「笑っていいとも」でも戦場カメラマンとして紹介された桃井和馬さんが、『妻と最期の十日間』(集英社新書)を上梓されました。
ご夫妻とも古くからのお客さまで、亡くなった妻の綾子さんは、海外で働くことの多い夫の桃井さんを献身的に支え、働きながら子どもを育てる誰からも好かれる魅力的な女性でした。
本書は、ひとりのフォトジャーナリストが、それまではまったく元気だった妻の死の際に突如投げ出され、自分自身の弱さや苦しみから目をそらすことなく、率直、克明に現実を描きだした渾身の記録であり、壮絶な家族のドラマです。
突然の知らせから旅立ちまでの日々を、戦場で培った客観的な眼差しで事態を把握しようとすることで、必死に心の安定を保とうとする夫。
緊迫する病状の変化。愛するひとの死を目前にした者たちの赤裸々な姿。世界各地の紛争地での経験を交えた圧倒的な迫力の筆致は、どんなノンフィクションよりも万感胸に迫るものがあります。
エポペにも(本文中に掲載していただいているため)反響が次々に寄せられていますが、あらためて、いのちの重さと家族の結びつき、そして宗教の意味を深く考えさせられる作品です。
さらにもう一冊、桃井さんの写真集『すべての生命にであえてよかった』(日本キリスト教団出版局)も、最近刊行されました。
ギアナ高地、パタゴニアの写真を中心に、いまも彼のなかに生き続ける奥さまに支えられて撮り続けた写真集とも言えるでしょう。人が生きること、生かされていることを、美しい自然の写真から構成したものです。
どちらも新年に向けて、ぜひお読みいただければ幸いです。
終わりは始まりのとき。
この一年の終わりに、あらためて皆さまのご愛顧を心より感謝し、未来への希望を込めた祈りの言葉とさせていただきます。
皆さま、どうぞ、よいお年をお迎えください。
深い感謝のうちに。
(※) 「唯一の神、父である神がおられ、万物はこの神から出、わたしたちはこの神へ帰って行くのです。」(財団法人日本聖書協会『聖書 新共同訳』一コリント書8・6より)